torago.jp

平成最後の日にブログ始めました。レザークラフト、写真をメインに書いています。

「アビガンが効かない」というには早計だと思う

スポンサーリンク

先日アビガン(ファビピラビル)の臨床研究の結果が話題になりましたね

www.fujita-hu.ac.jp

今回の発表をうけて自分が気になったことがあり、調べてみた結果「アビガンが効かない」と断言するには短絡的なのではないかと思いまとめてみました

 

臨床研究の概要は一般人に見れるのか

臨床研究なんて専門的なものを一般人が見れるか気になりますが、結論から言うと厚生労働省が整備するデータベース:jRCT(Japan Registry of Clinical Trials)で見ることができます。

jrct.niph.go.jp

詳しくは割愛しますが、臨床研究には裏で色々行われていないか透明性・信頼性を確保するために情報の公開をしなければなりません。臨床研究は膨大な数が行われているためその公開情報をまとめるためにこのサイトがあり、厚生労働省の管轄のため情報の信頼性は確かです。

 

さて、今回話題になった藤田医科大学によるアビガンの臨床研究についての情報ももちろん公開されています。

正式名称「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」

となっているためjRCTのサイトにある検索画面から「研究名称:ファビピラビル」って調べれば辿り着くことができますが

 

Googleで「アビガン 藤田医科大学」って調べて1ページ目に出てきたりします。さすがGoogleって感じです 

 

どの項目が重要なのか

このjRCTの情報には代表者・研究機関・実施内容・補償・研究資金の提供などかなりの項目がありますが、今回は研究内容についてなので

 

2 特定臨床研究の目的及び内容並びにこれに用いる医薬品等の概要

(1)特定臨床研究の目的及び内容

 

について確認してみました

この中の項目でも臨床研究では

  • どの患者さんに
  • どのようなことをして
  • どの集団と比較して
  • どのような結果が表れたか

ということが重要になってきますので、以下の3つを抜き出してみました

研究対象者の適格基準

(1) 同意取得日の年齢が16歳以上

(2) 性別:不問

(3) 外来・入院:入院

(4) 被験者の登録時に下記1)および2)および3)の基準を満たす患者

1) 咽頭ぬぐい液または鼻咽頭ぬぐい液を検体として,RT-PCRでSARS-CoV2陽性となった患者(ただしその検体採取日から登録日までが14日以内)

2) パフォーマンスステータスが0又は1の患者

3) 6日間の入院が可能な患者

(5) 閉経前の女性患者の場合,ファビピラビル投与前の妊娠検査で陰性を確認できた患者

(6) 成人については本人の文書同意が得られている患者。16歳以上の未成年については本人及び代諾者両方の文書同意が得られている患者。

出典:臨床研究実施計画・研究概要公開システム

 

介入の内容

ファビピラビル群:Day1-10にファビピラビルを1日目1回1800 mgを2回,2日目以降1回800 mgを2回

投与開始遅延群:Day 6-15にファビピラビルを1日目1回1800 mgを2回,2日目以降1回800 mgを2回

出典:臨床研究実施計画・研究概要公開システム

 

主たる評価項目

Day6までのSARS-CoV2ウイルス消失率

副次的な評価項目

Day11までのSARS-CoV2ウイルス消失率
SARS-CoV2ウイルスゲノム量対数値における50%減少達成率 
SARS-CoV2ウイルスゲノム量対数値推移

出典:臨床研究実施計画・研究概要公開システム

 

気になった点

先の引用した点で赤字のところが気になりました

ウイルス消失率について

ウイルス消失率は文字通りウイルスがどれくらい減ったかということです。

どこのウイルス量を測ったのかについては英訳版で「nasopharyngeal swab:鼻咽頭 綿棒」とあったので、PCR検査と同じように鼻の奥にいるウイルスのようです

 

ここで思い出してください、PCR検査が陽性であるのに無症状という事例は何回も報道されています。つまり鼻咽頭にウイルスがいても治療がいらないといった人が普通にいます。さて、ウイルス消失率と症状には明確な関係があると言えるでしょうか。

私たちが欲しい情報はアビガンが新型コロナの治療に使えるのか、つまり

「アビガンは辛い症状を治してくれるのか」です。それなのに

「鼻の奥のウイルスが消失してないから治療には使えない」と言っていいのでしょうか。

体内の炎症を評価するにはCRPという数値がありますし、症状をみるなら気管挿管が必要になった割合など他にも調べられる項目はあります。その中で治療の指標としてウイルス消失率を選択したのはやや疑問が残ります。

 

パフォーマンスステータスについて

詳しい定義は国立がん研究センターのサイトに書いてありました。がん研究センターのページですが、パフォーマンスステータスは他の疾患でも同様です

パフォーマンスステータス(Performance Status:PS):[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]

簡単に説明すると、患者さんの日常生活の制限を0~4の5段階で分類したものです。

"0"は健康で"4"が寝たきりというイメージですね

 

さて、今回の臨床試験では「パフォーマンスステータスが0または1」となっています

先のサイトの引用を使わせていただくと

0: まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
1: 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行う ことができる。例:軽い家事、事務作業

出典:パフォーマンスステータス(Performance Status:PS):[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]

となっています。単純に解釈すれば、今回の対象者は家で普通に生活できるレベルの人たちが対象者なのです。

 

考えてみてください。あなたがインフルエンザに感染しているが日常生活が問題なくできるとき、わざわざ時間を割いて病院に行って診断もらって薬をもらいますか?

これくらい症状が軽いなら風邪だと思って市販薬飲んで終わりにする人も多いと思います。今回の研究の対象者はそのような軽症の人たちなのです。

 

私たちがアビガンの効果について本当に欲しい情報は

「症状がない時に効くかどうか」ではなく

「しんどい時に薬が効くかどうか」なのではないでしょうか

 

このような点でアビガンが効かないと断言するのは早いのではないかと思うのです。

 

この臨床研究は何のためにあったの?

端的に言うと安全性の確認のために行われたのではないかと思います。

治験ではまず健康な人に薬を与えて副作用が許容できるものなのかを調べてから治療対象の人たちに投与する試験に移ります。いわゆる第Ⅰ相試験(フェーズⅠ)や第Ⅱ相試験(フェーズⅡ)と呼ばれるものです。

いきなり重症患者さんに与えて重大な副作用が出てしまっては倫理的にかなり叩かれてしまうでしょう。そのためにまずは無症状・軽症者を対象にしたのでしょうが、これを「アビガンがコロナに効かない」と断言する発表のようにするのはなにか違うなと感じてしまいます

 

さらに裏を考えていくとアビガン(ファビピラビル)は物質の特許が切れており、ジェネリック医薬品が出てきているため他の薬と違って収益が低いのでそのへんの何かがあるんじゃないかと疑ってしまいますね。

 

 jRCTにてファビピラビルと検索すると他にも研究が出てきますが、一般の人が思う「アビガンの効果は」と感じるのは以下のような研究ではないでしょうか

「軽度呼吸不全を呈するCOVID-19肺炎患者に対するファビピラビル/ステロイド併用療法の多施設共同第II相試験」

臨床研究実施計画・研究概要公開システム

 

自分も今回のアビガンの報道を受けて効かないのかと一旦信じてしまいましたが、今回色々調べてみて報道機関の情報の切り抜きは怖いなと実感してしまいました。メディアはこのような研究内容をしっかり読んで判断したうえであんな見出しを書いているのでしょうか。厚生労働省の医系技官みたいにメディアも査読できるような人材を通してから報道しているのか疑問に思います

 

今回は以上となります

最後まで読んでいただきありがとうございました